憲法会議第41回全国総会方針

■ と き 2006年3月11日

■ ところ 東京・新宿農協会館

 

一、はじめに

昨年4月、衆参憲法調査会は5年にわたる「調査」の結果と称する「最終報告書」をそれぞれの議長に提出し、10月には自民党が「新憲法草案」を、民主党が「憲法提言」を発表しました。これらを後押しする財界やマスコミの動きも活発化しており、憲法改悪の動きはかつてない重大な段階に入っています。

こうしたなか、憲法会議は、憲法改悪に反対する広範な共同の実現をめざすとした40年前の発足の原点を再確認し、「九条の会」の発展や「5・3憲法集会実行委員会」の運動の前進のために奮闘してきました。同時に、パンフレットや資料集の発行、シンポジウムの開催など、学習・宣伝の強化にむけた独自の役割を発揮してきました。

改憲勢力が、いよいよ憲法改悪のための国会発議と国民投票という2つのハードルの突破をめざして動き出しているいま、憲法会議の果たすべき役割はますます重大となっています。

二、憲法改悪をめぐる当面の情勢

【1】 小泉政治の5年間は、あらゆる面で憲法のじゅうりんと破壊をおしすすめ、憲法に基づいて政治を行うとする立憲主義の根本を揺るがしています。そしていま、小泉内閣は憲法そのものの改悪に向け、具体的な動きを強めつつあります。

その最大の焦点が9条の改悪にあることは、ますます明白になっています。それは、自衛隊の存在を認知するためでも、「国を守る」ためでもありません。アーミテージ米前国務副長官が、「単に普通の軍事力を持つべきか否かにあるのではない。その軍事力によって、どのような地球的役割を果たせるかにある」(0512月4日「読売」)と述べているように、アメリカがおこなう海外の戦争に参加するためです。

アメリカはいま、テロリストの打倒、敵対国の大量破壊兵器獲得阻止などを掲げ、「長期戦争」の構えを強めています。とりわけ「不透明性や不確実性」をもったアジア・太平洋地域に向け、いつでも先制攻撃をおこなえるよう米軍の再編・強化をすすめています。昨年11月に発表された日米防衛安保協議委員会(「2+2」)報告「日米同盟:未来のための変革と再編」はその具体化であり、会談後、大野防衛庁長官(当時)が、「ミサイル防衛、情報共有、共同対処、基地の共有をやりたい。日米同盟の新しい姿だ。一緒に世界平和を築きたい」と述べたように、司令機能の統合を含めた日米の軍事一体化をはかり、日本をアメリカの地球規模の戦争に協力させようとするものです。しかも、イラクやアフガニスタンでともにたたかってきたイギリスやオーストラリアと同じように、日本が“ともにたたかい、ともに血を流す”ことを迫っています(06年米「4年ごとの国防計画見直し」)。憲法9条の改悪は、そうしたアメリカの要求に応えるため、大量破壊兵器など装備等に関する規制も、集団的自衛権の行使など武力行使に関する制約も、すべて取り払おうとするものです。これは、20世紀以来世界に広がった戦争違法化の流れと、第2次世界大戦の惨禍を経て打ち立てられた国連を中心とする平和の世界秩序への、きわめて乱暴な挑戦と言わざるをえません。

こうして9条改悪のねらいがますます明らかになるなか、世論調査では9条改悪に反対する世論が増加の方向に向かい、基地をかかえる自治体では住民の総ぐるみの反対運動がおこっています。また、「日本国憲法第九条は…アジア太平洋地域全体の集団安全保障の土台となってきた」(GPPAC「世界行動提言」)など、日本が9条を変えることに反対する声は国際社会でも広がっています。日本国憲法第9条を守ることは、日本の平和や国民の安全ばかりでなく、世界平和にとっても大きな意義をもちます。

 

【2】 小泉首相が5年連続で靖国神社に参拝し、麻生外相が天皇の靖国神社参拝を求めるなど、靖国史観を国民の中に広げようとする動きや、歴史を偽造する「新しい歴史教科書をつくる会」教科書おしつけの攻撃がしつようにつづけられています。とくに、「日の丸・君が代」のおしつけに象徴されるような教育に対する介入・統制が強められ、これらの仕上げとして教育基本法改悪の動きが強められています。こうした侵略戦争美化、国民主権否定の攻撃は、9条改悪がめざす「海外で戦争する国」づくりをイデオロギー面からささえよえとするものです。

 一方で、戦争をささえる国内体制づくりとして、テロ対策、「国民保護」を口実とした計画作成や実働訓練が自治体レベルに広がりつつあります。また、公職選挙法にもとづく文書違反起訴(10年ぶり)、ビラ配布活動にたいする国家公務員法の政治活動禁止規定の適用(37年ぶり)から、一般マンションへのビラ入れに「住居不法侵入」が適用されるなど言論・文書活動への弾圧が拡大されています。かつての治安維持法を想起させる共謀罪を新設するための刑法改悪まで企てられています。これらは、社会全体の自由な言論活動を萎縮させる効果をもつものであり、憲法改悪に向けての基盤づくりという面からも重視しなければなりません。

しかし、自由や民主主義の流れに逆行するこうした動きに内外の批判は高まっており、改憲勢力の内部にも矛盾と亀裂を生み出しています。靖国問題では、財界人や保守系のジャーナリズム、さらにアジア諸国やアメリカからも批判の声がおこっているのはそのあらわれです。「つくる会」教科書も住民の機敏な反撃によって、採択率をわずか0.4%におしとどめ、教育基本法改悪に反対する運動は広範な教職員・父母の共同へと発展しています。

 

【3】「規制緩和」、「民営化」などを掲げた小泉内閣の「構造改革」は、かつてない規模で国民生活の基盤を破壊しつつあります。あいつぐ医療・社会保障制度改悪や大増税、労働法制の改悪によって福祉・教育の切捨て、失業がすすみ、社会的格差が拡大しています。社会構造そのものの変化をもたらしつつある出生率の低下も、こうした弱者切捨て政策と深く結びついています。一方で、耐震強度偽装問題、米国産牛肉輸入問題、ライブドア問題、さらに防衛庁汚職等々がつぎつぎと噴出し、「構造改革」路線の破たん、政界と財界の底知れない癒着・腐敗ぶりも明らかになっています。

これらは、アメリカと日本の大企業の利益を最優先する政治が必然的にもたらしたものです。しかし大企業は、法人税や社会保障費負担の減免をさらにすすめるために「小さな政府」を主張し、経団連は「個人は、国家に頼ることなく自らの個性や能力を自由に発揮するとともに、社会や他人に対する責任を全うする」ことを公然と主張しています(「わが国の基本問題を考える」)。これは、財産権、契約の自由を絶対視する近代憲法のもとでの激しいたたかいをつうじて確立してきた「生存権」、「社会権」を否定し、最低限の生活を国民に保障する現代国家の責務を放棄するものです。日本社会を189世紀の弱肉強食の状態に逆戻りさせることにほかなりません。

こうしたなかで、大増税反対、福祉と暮らしを守るたたかいも多面的に発展しています。

三、憲法改悪に向けた動きの現段階

【1】 改憲の第1のハードル=衆参それぞれで改憲発議に必要な3分の2議席を確保することに向けて、自民、民主、公明3党は、国会の憲法調査会における論議をつうじ、さらにはそれぞれの改憲構想の発表をつうじ、改憲案合意に向けたすりあわせをおこなってきました。

 最大の焦点である9条改悪に関しては、自民党は、新たに設置する「自衛軍」に集団的自衛権の行使も、海外での武力行使も認める方針です(「新憲法草案」)。民主党も、「自衛権」を明記することとあわせ、「多国籍軍」への参加を認めます(「憲法提言」)。湾岸戦争の際に編成された「多国籍軍」は国連憲章42条にもとづく国連軍ではなく、41条にもとづく経済制裁に実効性をもたせるとの口実でアメリカが編成したものです。NATO諸国が集団的自衛権の行使として軍隊を派遣したように、これへの参加を認めることは集団的自衛権の行使にほかなりません。公明党は、新たに3項を設け、自衛権を明記し海外活動を容認する方向です(神崎代表ら)。実質的に自民、民主と共通の基盤に立つものです。

 自民党が地方自治制度の大改悪をつうじて福祉・教育の受益者負担化をおしだしているのにたいし、民主党は「自立と共生を基礎とする国民が、みずから参画し責任を負う」ことを強調し、福祉や教育を「自立と共生」におきかえています。国民の生存権を否定し、現在の「構造改革」路線に憲法的根拠を与えるという共通の基盤に立つものです。

個々の問題での共通性にとどまらず、憲法そのものについての考え方においても、「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」(自民党)、「憲法それ自体が国民統合の価値を体現するもの」(民主党)と、両党とも、憲法を国民を統制し、義務を負わせるものに変質させようとしている点で一致しています。

自民党、民主党、公明党の間の合意には、決定的な障壁は存在しません。国民投票法制定に向けての3党協議も、憲法改悪の意思をお互いに確認しあう第一のステップです。

 

【2】 焦点は第2のハードル=国民の「過半数の賛成」にあります。

世論調査では、一般的な改憲への賛否では、賛成58%にたいし反対34%ですが、第9条に関しては改憲賛成30%にたいし改憲反対は62%と逆転しています(0510月5日「毎日」)。9条改憲のねらいが地球規模で行われるアメリカの戦争に参加することにあることを明らかにするなら、この差はさらに広がる要素をもっています。9条の改悪を最優先する改憲勢力が、このままの状態で国民投票に臨めないのは当然です。しかも、一般的な改憲に賛成が多数という世論も、憲法で強調すべき事項として上げているのは、@平和の大切さ67.9%、A自然や環境の保護39.4%、B国際社会への貢献28.7%、C教育・文化の振興25.1%、D社会における平等22.4%等であり(05年4月8日「読売」、3つまで選択)、実質的には日本国憲法を生かすことによって実現するものです。国民の中には、憲法改悪に反対する大きなエネルギーが存在しています。

この世論を切り崩すため、自民党や民主党は全国11ブロックでシンポジウムを計画するなど、改憲案を掲げて国民的論議の盛り上げをはかろうとしています。そのなかで、「おしつけ憲法」、「現実との乖離」、「時代遅れ」などともに、「北朝鮮脅威」、「中国脅威」、あるいは「国際貢献」等のデマ宣伝をさらに大規模に展開しようとしています。さらに、これらと補い合うものとして侵略戦争を美化し、偏狭なナショナリズムをあおるイデオロギー攻撃や、言論活動への干渉・弾圧があります。

国民投票法の制定も、改憲機運の盛り上げをはかる役割を担うと同時に、言論活動の規制や、「過半数」ラインを最低レベルに設定する等、国民投票のハードルを可能なかぎり低いものにすることが企てられています。

四、国民過半数確保のための運動と憲法会議の任務・課題

【1】憲法改悪を許さない最も確実な保障は、過半数を超える圧倒的多数の世論をいち早くつくりあげ、この企てを国民投票にも持ち込ませずに葬りさることにあります。

国民過半数という大事業の展望を切り開きつつあるのが、04年6月に発足した「九条の会」です。「九条の会」が発したアピールに賛同する地域、分野別の「会」が、わずか1年半余で4000を突破しました。しかも、そこには、文字通り保守・革新や、宗教、社会的立場の違いを超えた人びとが結集しています。これまで運動や組織に参加することをためらっていた人も少なくありません。とくに、小学校区単位、丁目単位で「会」がつくられている地域では、全戸にチラシを配布したり、各戸訪問で署名をよびかけるなど、文字どおり地域全体を視野に入れた運動が始まっています。また、急速に増えつつある職場の「会」の中には、労働組合の上部組織や組合員・非組合員の違いを超えた結集し、平和の問題だけでなく労働条件等についてもともに論じあえる空気をつくりだしている「会」も生まれています。

これらの先進的経験を広げ、あらゆる地域、職場、学園に数千、数万の「会」を作っていくなら、過半数の世論結集へ道を開くことは十分に可能です。しかしこれは、私たちがかつて経験したことのない課題への挑戦であり、これまでの経験にとらわれず、思い切って視野を広げ、大きな構えで取り組んでいくことが求められています。

 

【2】憲法会議は、「憲法改悪阻止を目的とする他団体との共同行動・統一行動の強化」を掲げて発足した組織として、「九条の会」の発展のために、その一翼を担って奮闘しています。しかし今後、国民投票法案など改憲に向けたさまざまな動きが予想されるなかで、署名、集会、大規模な統一行動などを情勢におうじて機敏に展開していかなければなりません。それには、国民的な運動を担いうる団体間の共同が必要なことは明らかです。

こんにち、そうした国民的共同がどのような形をとるかを予測することはできません。しかし、東京をはじめいくつかの府県で実現している「5・3憲法集会」などでの共同は、そうした国民的共同への基盤をつくる取り組みといえます。とくに、東京の「5・3憲法集会実行委員会」は、2001年以来5年間、「5・3憲法集会」を開くなかで事務局団体相互の信頼関係を深め、「5・3憲法集会」にとどまらず、改憲問題での院内集会や昼休みデモなど、一致する課題での共同行動を広げています。そうした共同の取り組みを一つひとつ成功させるとともに、あらゆる県でそうした共同実現への努力を強め、国民的な共同組織の基盤を拡大していくことも急務となってきています。

 

【3】この一年、憲法会議が発行する『月刊憲法運動』の定期読者がコンスタントに増えつづけ、ブックレットやリーフレットもかつてない規模で活用されるなど、憲法会議が果たす独自的な役割への期待が高まっています。しかし、具体的な改憲案が提示され、これをめぐってさまざまな論議やキャンペーンが展開される段階に入っている今、この独自的な役割の発揮が情勢にふさわしいものとなっているとはいえません。

 いま、「九条の会」や「5・3憲法集会実行委員会」、民主勢力の運動を交流・促進する共同センターなど、それぞれ組織がそれぞれの性格に応じた運動を展開しています。その中で憲法会議の独自的役割を発揮するためには、全国に支部・分会・班をもつ参加団体と憲法研究者や法律家などの専門家集団で構成されているという特質を生かすことが重要です。

 したがって、改憲論の本質の分析・批判し、これをはねかえすための学習・宣伝を職場・地域・学園に広げることが憲法会議に強く期待されるのは当然です。そのための出版活動、講師活動も憲法会議の重要な活動分野であり、それをささえるための研究会、シンポジウム等もますます重要になっています。この間、いくつかの地方憲法会議が、「憲法学校」、「市民憲法セミナー」などと銘打って、定期的に改憲案の批判や時々の憲法問題を学習する場を設けていることも、憲法会議にたいする期待に応える貴重な取り組みです。

 これらの期待に応えるためにも、憲法会議の強化は急務です。なによりも資材の注文や講師依頼、各種問い合せに対応できる事務局体制を確立することが大前提です。同時に、会員や『憲法運動』の定期読者を増やし、運動の担い手をつくる意識的努力が急がれます。財政については、会費のみではなく学習資材の活用による積極的な取り組みと、担当者を決めた実務体制の確立が強く求められます。

むすび

憲法の改悪を阻止するたたかいは、日本国民の中に憲法を広げ、根づかせるたたかいでもあります。私たちがこのたたかいに勝利したとき、日本社会のルールとして憲法がしっかりと位置づけられ、憲法が生きる21世紀に足を踏み出すことができます。同時に、それはアジアと世界の平和にたいして日本がおこなうことのできる最大の「国際貢献」となり、日本は「国際社会において名誉ある地位」を占めることになります。この自覚と決意をもって奮闘する時が「今」です。