民主党「憲法提言」の策定に向けて 05年4月25民主党憲法調査会会長 枝野幸男
補足資料 法改正国民投票法制に係る論点とりまとめ案 党憲調役員会案

説明資料法改正国民投票法制に関する論点とりまとめ案 党憲調役員会案


民主党「憲法提言」の策定に向けて
20054月25
民主党憲法調査会
会 長 枝野幸男

1、衆参両院における憲法調査会の報告を受けて

1)いまやっと、スタート・ラインに立った。

 今般、衆参両院における憲法調査会の調査報告書が決定された。報告書の中身は、客観的な議論の状況を論点ごとに整理したにとどまるものであるが、この五年間の成果が現れたという点で、十分に評価できるものである。憲法に関する議論がオープンな形で進められたことは画期的なことだと言わざるを得ない。

 これによって、これまでの改憲・護憲の両極端な二元的論争の時代に終止符を打ち、多様な角度から憲法を自由闊達に議論するための土台ができたと受け止めている。とりわけ、日本国憲法の三つの根本規範、すなわち国民主権、基本的人権の尊重及び平和主義を堅持することについて、与野党の区別なく合意を得たことは、今後の憲法論議の土台が定まったという意味において極めて重要なことだと言える。

 それでも、憲法を巡る議論は、ようやく、国民的な議論に向けてのスタート・ラインにたどり着いたに過ぎない。

2)論点は示された。議論はこれからである。

 院内の議論においては、政治的な発言や社会問題をそのまま取り上げる発言など、一体、どれが憲法論議なのかあいまいなままに進められたものもあった。また、政党間の意見の隔たりはもとより、個々の議員間の温度差も依然として少なくない。論点が絞られたとは言え、未整理の課題も多数残されたままとなっている。

 今後さらに、憲法の見直しを必要とするもの、憲法の運用や解釈そのものを正していくべきもの、憲法付属法にて整理すべきもの、あるいは法律の立案や改正によって処理すべきものといった具合に、論点そのものを再整理し、より具体的な憲法論議へと深めていく必要がある。本格的な議論はまさにこれからである。

3)国民的なコンセンサスの実現に努力を傾けていく。

 憲法についてそれぞれの想いで意見を発露することは必要だが、それだけでは現実の憲法を変えることはできない。

 憲法論議を踏まえて何らかの改革を行おうとするならば、衆参各院において国会議員の3分の2以上の合意を達成し、国民多数の賛同を得るのでなければならない。政党には、自党の意見表明だけにとどまることなく、国会としてのコンセンサスをどう取りつけるのかに向けて真摯に努力していくことが求められている。

 憲法の姿を決定する権限を最終的に有しているのは、政党でも議会でもなく、国民である。今後はさらに、憲法を制定する当事者である国民の議論を大いに喚起していくことが重要である。民主党は、その先頭に立って、国民との対話を精力的に推し進めていかなければならない。

 

2、次の展開に向けて

1)ポスト憲法調査会の構想、次のステップへ

 われわれには、衆参両院におけるおよそ五年間にわたる審議の蓄積と経験を生かして、次のステップへと踏み出していく責任がある。また、当面の課題として、憲法改正手続法制・国民投票法制の整備にとりかからなくてはならない。現行の憲法調査会を継続して、憲法そのものの議論をさらに深化させると同時に、同調査会において、国民に開かれた形で、これらの議論を進めるべきと考える。

 民主党においても、憲法改正手続法制・国民投票法制に関する議論を進め、どのような仕組みがよいのか、国民の自由闊達な議論を沸き起こすために何が必要なのかをしっかりと踏まえて、法整備に対処していかなければいけない。

2)テスト・ケースとしての国民投票法制、3分の2は実現できるか。

 憲法改正手続法制を具体化するに際しても、古典的な改憲・護憲両勢力の対決や与野党対峙の場を演出するものとして煽り立てることであってはならない。最も重要なことは、憲法という国の重大事項に関して、与野党の壁を超えた国民的コンセンサスをいかに創り出していくのか、いわばテスト・ケースとしてこの問題を位置付け、取り組んでいくことである。手続について合意形成ができない中で、具体的な憲法の中身について、3分の2の合意を形成することはとうてい困難である。

 国会の政治的力量とその成熟度が問われている。

 

3、「憲法提言」の策定に向けて

1)この間の取り組みと「提言」の位置づけ

 民主党は、衆参両院における憲法調査会が発足する前から、党内に調査会を設置し、精力的な憲法論議を積み重ねてきた。その基本的立場は、旧来の意味での改憲でも護憲でもなく、憲法について正面からその問題点を析出し、その改革方向を見出していくという意味での「論憲」もしくは「創憲」という姿勢にあった。以来、「総論」「統治機構」「人権保障」「分権」「国際安保」の5つの小委員会を中心に取り組み進めてきた。

 その結果は、鹿野道彦会長(現・憲法調査会顧問)、中野寛成会長(現・衆議院副議長)、そして仙谷由人会長(現・政調会長)の三代の憲法調査会長を経て、三つの報告としてとりまとめられ、民主党の憲法改革提案として公表されてきた。そのとりまとめに際しては、江田五月事務局長(現・参議院議員会長)が終始重要な役割を担ってきた。そして、それらの成果は、この間、衆参両院における憲法論議に影響を与え、議論をリードする素材となってきた。

 そしていま、国民的論議を起こすときである。昨年6月、参議院選挙直前に発表された「中間提言」をベースに、今後は、民主党と国民との憲法対話に供する「憲法提言」をとりまとめていく仕事が残されている。そのためにも、党内議論をより一層活発なものとして、しっかりとしたコンセンサスを得た「提言」に仕立て上げていく必要がある。

2)「憲法提言」のための中間的な報告

 昨年末以来、われわれはそのための議論を五つの小委員会ごとに推し進めてきた。課題をえぐり出し、論点を再整理して、1つひとつのテーマについて真摯な討論を積み重ねてきた。それでも、憲法という巨大な主題を論議し尽くすには、さらに時間と熱意ある審議が必要である。

 そこで、私は、ここにおいて、この間各小委員会において積み重ねられた議論を踏まえ、次第にその輪郭が明らかになりつつある憲法論議のための基本方向について、改めて中間的な報告をしたいと思う。

 (1)憲法は、何よりも先ず、公権力行使のためのルールを定めたものである

 われわれが議論の対象としている「憲法とは一体何であるのか」、ここが総ての理解の出発点である。憲法とは、何よりも先ず、国会・内閣・裁判所等の機関に対し、国民の名において公権力行使の権限を授け、これを国民の名において監視し、コントロールするための基本ルールのことである。そしてこれが言葉の正しい意味での国民主権の実質である。

 ところが、今日われわれが目撃しているわが国の憲法の姿は、時々の政府の恣意的解釈によって、公権力の都合に合わせて憲法の運用を左右しているという現実である。それどころか、同一の内閣においてすら、憲法解釈が平然と変更されて、いまや「憲法の空洞化」が叫ばれるほどになっている。このままでは、憲法の基本的役割である「公権力行使のためのルール」という機能は無きがごとき状態に陥るであろう。いま最も必要なことは、この傾向に歯止めをかけて、憲法を鍛え直し、「法の支配」を取り戻すことである。そのために何が必要かを真正面から検討し、必要ならば憲法の機能を回復させるための改革、すなわち憲法改革にチャレンジしていく気概が必要である。

 (2)第1小委員会では、七つの柱を立てて、民主党がめざす憲法の姿を提示すべきだとしている。

 憲法総論を扱う第1小委員会では、新しい時代に向かう国造りの基本原理として、次の「七つの柱」を軸にさらに議論を進めていくことが確認されている。

第1は、わが国の歴史・伝統・文化を踏まえた国の形を明示すること。

第2は、国民主権の強化、とりわけ議会の行政監視機能を強めること。

第3は、国民共同の責務を明らかにし、未来への責任を謳うこと。

第4は、個人の自立を大切な価値目標として、人間の尊厳と自立主義を掲げること。

第5は、補完性の原理に基づく、分権型社会の創造をめざすこと。

第6は、これからの社会と国家の基本原理として、環境重視を盛り込むこと。

第7は、国際社会へのコミットメントを大切にする、国際協調主義の立場に立つこと。

 これらのうち、国の形を決定づける最も重要な方向として、私は、「分権社会の創造」を特に強調したいと考えている。

 

 (3)第2小委員会では、統治機構についての見直しが行われ、国民主権の徹底が謳われた。

第1は、首相主導の政府運営の実現である。

 @憲法第65条の規定における主体を「内閣」ではなく、「内閣総理大臣」として、首相の主導権と責任を明確にすること、

 A同条における「行政権」を「執行権」に切り替えること、

 B上記に基づいて、現行の内閣法や国家行政組織法を大胆に見直すこと、

第2は、議会(国会)の権限強化と行政監視機能の充実である。

 @国会に、議会オンブズマンもしくは行政監視院のようなものを設置し、専門性の高い行政監視機構を整備すること、

 A現在行政府が所管している独立行政委員会について、その準司法的機関・行政監視機能としての性格を踏まえて、議会によって設置されるものへと切り替えること、

 B国政調査権を少数でも行使可能なものにし、議会によるチェック機能を強化すること、

 C二院制を維持しつつ、その役割を明確にし、議会の活性化につなげること、

第3は、司法権の強化と違憲審査機能の拡充である。

 @違憲審査機能の拡充をめざして、新たに憲法裁判所の設置をめざすとともに、併せて最高裁判所裁判官を議会の同意事項とすることを検討すること、

 A行政訴訟制度を大胆に見直し、憲法に国民の幅広い訴訟権を保障すること、

第4は、公会計や財政に関する諸規定を整備することであり、

第5は、議会政治を補完するものとして、国民の意思を直接問う国民投票制度の拡充を行うことである。

 最後に、統治機構の最大テーマの1つとして、日本が分権国家として構成されることを明確にすることが謳われている。

 (4)第3小委員会では、「人間の尊厳」の尊重と「共同の責務」の実現を基本とした、人権保障体制の確立をめざすとしている。

第1に、「人間の尊厳」の尊重を再確認し、特に以下の点が提起されている。

 @EU憲法にも謳われているように「声明の尊重」を明記すること、

 Aドメスティック・バイオレンスやセクシャル・ハラスメントなどに見られる、「人間の尊厳」を破壊する一切の暴力からの保護を明確にすること、

 B犯罪被害者の人権を擁護すること、

 C子どもの権利と子どもの発達を保障すること、

 D外国人の人権を保障すること、

 E信教の自由を確保し、政教分離の原則を厳格に維持すること、

 F年齢差別や性差別などあらゆる差別をなくす規定を検討すること、

第2に、「共同の責務」を果たす社会へ向かうことが掲げられている。

これは、例えば、環境保全の場合のような社会的広がりを持つ課題の解決について、国、地方公共団体、企業その他の中間団体、および家族・コミュニティや個人の協力がなければ達成し得ないという基本認識がそこにある。<国家と個人の対立>や<社会と個人の対立>を前提に個人の権利を位置づけるだけでなく、国家と社会と個人の協力の総和が「人間の尊厳」と個人の自立を保障する側面があることを、改めて確認するものでもある。この考えに基づき、以下の点が提起されている。

@憲法において「地球環境」及び「環境優先」の思想について言及すること、

A人権や環境の保護・維持向上のための「共同の責務」を明確にすること、

B現在に生きる人々の利害だけでなく、将来の人々に対する責務も果たすこと、

C土地資源や自然エネルギー資源など、公共的価値を有する財産についてはその利用と処分についての制限を設けること、

D「共同の責務」を果たすための中心的役割の1つを担う公務員の権利義務について再検討すること、

 このほかに、曖昧な「公共の福祉」の再定義が必要であることが提起されている。

第3に、情報社会の到来と価値意識の変化に対応した「新しい権利」を確立するための提言がなされている。

 @国民の「知る権利」を憲法上の権利とし、行政機関や公共性を有する団体に対する情報アクセス権を確立すること、

 A情報社会に対応し、プライバシー権を自己情報コントロールの観点から再整理して、その権利性を明確にすること、

 B情報リテラシー(読み解く能力)を確保し、「対話の権利」を保障すること。および人間の潜在能力の開発を支援することを国の責務とする、「学習権」の概念を確立すること、

 C多様な働き方が広がる社会に適合するよう、「勤労の権利」を見直し、職業選択の自由を具現化するための職業訓練機会の保障に係る国及び企業等の責務を明確にすること。また、地球における様々な社会活動、ボランティア活動等への参加を保障すること、

第4に、日本国民として主体的に国際人権保障の責務を果たしていくことの必要性が指摘されている。

 @憲法の中の司法に関する項に、「国際人権法」等の尊重を採り入れること、

 A憲法の最高法規及び条約に関する項に、国際条約の尊重・遵守義務に加えて、それに対応する「適切な国内措置」を講ずることを義務づけること、

 (5)第4小委員会では、「補完性の原理」に基づく地域主権国家への転換が掲げられている。

第1は、補完性の原理に基づく、基礎自治体優先の考えである。

まず住民に身近な行政は優先的に基礎自治体に配分し、基礎自治体ではなしえない業務や権限については、都道府県もしくは道州に相当する広域自治体に移管するとの前提で、中央政府と地方政府(地方自治体)の行政権配分を憲法上明確にすることなどである。

第2は、国・地方の間の権限配分の明確化である。

 この中央政府と地方政府との権限配分に対応し、地方自治体に専属的あるいは優先的な立法権限を憲法上保障して、この権限をめぐる中央・地方間の紛争については、予定されている憲法裁判所などが審査することなどである。

第3は、地方政府の多様性の承認である。

 これまでの首長と議会の二元代表性だけでなく、「執行委員会制」や「支配人制(シティ・マネージャー制)」など多様な組織形態の作用を可能にするため、自治体の組織・運営のあり方は住民がこれを決めることを原則とすることなどである。

第4は、財政自治権・課税自主権の確立である。

 地方自治体の財政自治権・課税自主権を憲法上保障し、新たな水平的財政調整制度を創設することなどがある。

 (6)5小委員会では、すでに公表されている「中間提言」において二つの枠組みが提起されている。

第1は、「制約された自衛権」を明確位置づけることである。

 国連憲章に定められた「制約された自衛権」をベースに、わが国の政治の中で定着してきた「専守防衛」の考えを踏まえつつ、何らかの形での「自衛権」を憲法上明確に位置づけることである。

第2は、国連主導の集団安全保障活動への参加を明確に規定することである。

 国連安保理もしくは国連総会の決議による正当化された集団安全保障活動に参加することを可能にする規定を設け、政府の恣意的解釈による対外活動を規制すること、ただし、集団安全保障活動への参加に係る具体的基準等については改めて検討・審議することなどである。

 これらの内容については、さらに慎重な審議が必要である。また、「人間の安全保障」という新しい問題提起について、さらに深い議論をする必要があるとの指摘を受けている。このほか、シビリアン・コントロール(民主的統制)、アジアにおける地域的集団安全保障機構についての構想や国連平和部隊のあり方、緊急事態に係る危機管理のあり方などについて問題提起がなされている。

 さらに、憲法上の整理とともに、憲法付属法としての性格を有する「安全保障基本法」の整備を行う必要があるとの提起も受けている。

 

結 び

 憲法を変えることによって、何がどう具体的に変化するのかを理解できるまでになるためには、憲法条文の改正とともに、関連する憲法付属法の整備が必要不可欠である。例えば、先に触れた「議会(国会)の行政監視機能の強化」を実現するためには、憲法上の規定を見直すとともに、国会法、両院規則、国家行政組織法などの再編成が行われなければ実効性は伴わない。

 われわれが準備する国民対話のための「憲法提言」は、そうした憲法付属法の点検・組み換えをも考慮した、より具体的なものとして提案される必要がある。

 そのためにも、今後さらに、全議員の知恵と議論を結集し、国民に解りやすい言葉と親切な提案となるよう努力していく必要がある。連休明けから、全議員に呼びかけた各小委員会を開催し、その場に民主党の各議員が積極的に参加していただけるよう取り組んでいきたい。その論議の中から、「憲法提言」を集約していくつもりである。

 最後に、憲法制定権限を有する国民の大多数が共鳴し、賛同できる質を伴った「憲法提言」をとりまとめていく仕事が残されていることを改めてここに再確認する。
                        
                       以上

 
補足資料

憲法改正国民投票法制に係る論点とりまとめ案  党憲調役員会案

2005年4月25日(月) 民主党憲法調査会総会提出資料

〔本案は、民主党憲法調査会拡大役員会においてこれまで検討を重ね、とりまとめたものである。憲法、国会法、国民投票法(仮称)に係る論点を総括して取扱っており、論点1.〜14.について「提案」(役員会案)として枠内で囲んだ。また、参考として「他に選択しうる案」を示した。〕

 

論点1.国民投票制度がカバーする範囲(直接民主制の補完的導入)

【提案】

  憲法改正に限らず、皇室制度、家族制度、生命倫理など、国民の重大な関心事、政策テーマについても国民投票をおこなうべきである(必要的投票のほか、任意的投票を容認する案)

【理由】

 憲法改正案以外の重要な国家的政策課題についても、国民投票によって国民の意思を反映させるべきとの意見が多数である。

 国民投票制度の積極的活用は、直接民主制の契機となりうるが、あくまで現行憲法41条の国会単独立法の原則(国会による立法は、国会以外の機関の参与を必要としないで成立するとの原則)を害しない程度で、任意的国民投票を制度化する方向で検討する。

【他に選択しうる案】

 国民投票は、憲法改正手続に限定すべきである(必要的投票に限定する案)。

<理由>@任意的投票制度の導入は、間接民主制の原則(前文、43条)に反する。

    Aどのような場合に任意的国民投票を実施するかが明確でなく、かえって迅速な意思決定を遅らせる危険がある。

    Bそもそも96条が予定し、必要としている国民投票制度と、そうでない任意の国民投票制度を同じ法律で定めることには問題がある。

 

論点2.憲法改正の限界

【提案】

  憲法改正の限界を認める(憲法改正限界説)。平和主義、国民主権(立憲民主主義)、憲法改正規定など、根本規範としての中核をなす部分については、改正できない。

【理由】

 憲法典において、平和主義、国民主権、基本的人権の尊重などは、他の規定と比べて優越した規範性を有していることに異論はないと思われる。

 但し、この案を採用した場合には、憲法改正の限界を逸脱した国民投票に関して投票無効の争い(司法審査)が生じうることになろう。

【他に選択しうる案】

 憲法改正に限界はない(憲法改正無限界説)。

 <理由>@憲法規範に価値序列は存在しない。

     A憲法改正権は憲法制定権力と同視しうる、万能の権利である。

 

論点3.発案権の所在

【提案】

国会による発案(96条1項)のほか、「国民による発案」も一定の条件下で認めるべきである。

内閣の発案権は、これを認めないこととすべきである。





【理由】
 論点1.において、任意的国民投票を容認し国民投票で扱うべきテーマを憲法改正以外にも拡げるべきことに触れた。様々なテーマで国民投票が実施されることが期待されるところである。国民投票を通じて(憲法制定権力者たる)国民の政治参加を拡充するために、発案権を出来るだけ広く考えるべきである。

 もっとも、どのような方式・要件の下で国民発案を認めるか(国会でどう取り扱うか)については、今後議論を要する。

 また、内閣の発案権は否定すべきである。内閣による法律案提出権と同様に肯定する見解があるが、憲法改正は当初から国民投票が予定されていることから、法律案の提出とはもともと性質が異なると考えるべきである。

【他に選択しうる案】

ア.国会のみ発案権が認められる。

<理由>@96条1項には、「国会がこれを発議し、」と規定している。

    A国民の関与は国会発議後の国民投票によってなされるというのが96条の趣旨である。

    Bそもそも憲法改正には、手続の厳格さと審議の慎重さが求められるので、国会以外の国家機関、国民の関与は制限すべきである。

イ.内閣にも発案権を認める。

<理由>発案権を認めても、国会の発議権まで侵すことにはならない。

 

論点4.憲法改正の方式

【提案】

書替改訂方式(溶け込み方式)によるべきである(逐条改正方式が前提)。

これは、「○○法の一部を改正する法律」で、実際使われている法改正方式である。

 【理由】

 「憲法改正国民投票制度法案に関する民主党の基本的態度」(2005年2月1日まとめ)では、党として書替改訂方式(溶け込み方式)によるべきことを確認している。

 書替改訂方式(溶け込み方式)は、改正の度に条文が改まるので、現在有効な規範(条文)を知ることが容易である。

 【他に選択しうる案】

 ア.全面改正方式(→前文も含め、「日本国憲法」の表題から後の部分をすべて改正する)

 <理由>新憲法の制定に相応しい方式である。

 イ.修正条項方式(→前文、各条項の後に、修正条項を入れる)

 <理由>改正前の規定がそのまま整序されるので、改正の経緯を知るのに適する。

 

論点5.「総議員」の意義

 【提案】

 各議院の法定議員数と解すべきである(欠員は反対票と同じ扱いになる)

 【理由】

 硬性憲法であるがゆえ、発議に至るまでの手続の慎重さと厳格さが求められるので、「総議員」数が安易に変動しないようにするべきである。

 【他に選択しうる案】

 各議院の在職議員数(→法定議員数から欠員を差し引いた数)

 <理由>法定議員数を考えると、欠員は常に反対投票をしたのと同じ扱いになり、意思を正しく反映しない。

 

論点6.憲法改正発議の方法・広報

【提案】

両院において、憲法改正案の提出→審議→可決という経過を経て、原案がそのまま可決した場合には、他の特別な手続を経ずして発議があったと見るべきである。さらに、発議内容の広報のあり方について検討すべきである。

また、両院で異なる議決(一部修正等)をする可能性に配慮し、「憲法改正両院合同審査会」(仮称)を設置すべきである。

もっとも、ポスト調査会の設置を含め、国会法の改正等の諸論点については、衆・参憲法調査会の議論を十分尊重・配慮し、党内議論を積み重ねていくべきである。

 【理由】

 まず、憲法改正の発議について、現行憲法は手続要件をとくに加重していないが、衆・参両院で異なる憲法改正案を議決する可能性もあることに配慮しなければならない。憲法改正両院合同審査会(仮称)において、さらなる意見調整を図り、意思統一を図る必要があろう。憲法改正両院合同審査会(仮称)のあり方については、今後議論を行う必要がある。

 衆・参ポスト調査会の設置形態(権限)に係る論議がなお残っている。今後、各党協議が鋭意進められていく予定があるので、両院の意思統一を確認しつつ、成案を得る努力を積み重ねていく。

 

論点7.憲法改正発議後の周知期間(発議から国民投票までの期間)

 【提案】

 60日以後、180日以内とし、憲法改正案につき一律に周知期間を定めることなく、発議の際に個別に決することとすべきである。

 【理由】

 国民投票運動は、候補者(政党・政治団体)に投票する通常の公職選挙とは異なる。国民投票運動を活性化させ、国民には改正案の内容について多角的な観点で判断する時間と機会が十分に保障されなければならない。

 まず、下限の60日についてであるが、論点8.(下記)において未成年者にも投票権を拡大するケースが想定しうることや、その他様々な投票準備が必要となることからしても、最低2ヶ月程度の周知期間は必要であると考える。

 また、上限の180日については、改正案の内容によっては、半年近くかけて慎重に決すべき事柄が想定しうることを根拠とする。

 周知期間を発議の際に個別に決することにより、国会の意思を明確にしておく必要があると思われる。

 【参考】

 憲法調査推進議員連盟案…60日以後90日以内

 与党案…30日以後90日以内

 

論点8.投票権者の範囲

【提案】

 国民投票権者は、日本国籍を有する18歳以上の日本国民とすべきである。例外的に、義務教育修了者までに対象を拡げるべきである。

 公民権停止中の者でも、投票権を有することとすべきである。

 【理由】

 民主党は選挙権の18歳引下げをマニフェストで掲げていることから、国民投票権者の範囲についても整合性を保つ必要がある。

 例外として、義務教育修了者にまで引き下げる場合が問題となる。役員会としては、子どもの人権について改正が行われる場合(子どもの権利条約の国内法制化として、子どもの権利・義務が「憲法」に規定されようとしている場合)を想定している。義務教育段階では、憲法の理念、人権カタログの内容、統治構造などについては既に学習済みであり、将来の有権者としての政治的意思を尊重することに十分な意義があると考える。

 また、年齢の問題ではないが、選挙犯罪を犯して公民権停止になっている者は選挙人名簿に登載されないことになっているが、公職の選挙と国民投票は質的に異なるので、国民投票に参加することができることとすべきである。

 【他に選択しうる案】

 日本国籍を有する20歳以上の日本国民とすべきである。

 <理由>@未成年者には、憲法改正案についての判断能力が十分でない。

     A96条1項は、国政選挙と国民投票の同時実施を予定し、選挙権者と投票権者が一致することを示唆している。

     B選挙権者と国民投票権者を別と解すると、現にある選挙人名簿とは別に「投票人名簿」が必要になるなど調製が煩雑である。また、洋上投票や在外投票においては、一部の者の投票権が奪われるケースが出てくる。

     C国民投票に係る罪を犯した少年は保護処分の対象となり投票権は失わないが、成年者の場合には投票権が停止する不均衡を避けるべきである。

 

論点9.外国人の国民投票運動の自由(意見表明権)

 【提案】

 外国人の国民投票運動の自由は、公共の福祉に反する場合(内在的制約)を除き、可及的に保障されるべきである。

 【理由】

 憲法改正国民投票という国政上の重要な意思決定に、日本国籍を有しない外国人が参加することは認められないが、意見表明権は最大限保障されるべきである。例えば、日本に生活の本拠を置く定住外国人などは、その利害関係性が容易に想起しうる。

 【他に選択しうる案】

 外国人の国民投票運動の自由は、保障されない。

 <理由>@投票権がない外国人に、国民投票運動の自由を認める意義は乏しい。

     Aマクリーン事件判決(最判昭53.10.4)は、外国人の政治活動の自由について「政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみ、これを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶ」と判示している。国民投票運動は「政治活動」に他ならず、まさに「わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす」おそれがある。

 

論点10.国民投票の方式

 【提案】

 個別投票方式を原則とすべきである。また、相互不可分な条文の間で投票矛盾が生じないような、投票用紙の工夫が必要である(この点は、論点6.の憲法改正発議の方法如何にも関係する)

 【理由】

 論点4.において、逐条改正方式を前提とした「書替改訂方式(溶け込み方式)」を原則採用することから、各改正案について個別に国民の意思を問うのが論理的である。

 もっとも、内容的に相互不可分な条文で矛盾した投票行動が起きないように、その場合には限定的に一括投票方式を採るなど、制度上の工夫が求められる。

 【他に選択しうる案】

 一括投票方式(→改正案のすべてを一括して賛否を問う)

 <理由>各改正案につき、賛否それぞれ集計すると、手間がかかる。

 ※もっとも、一括投票となるか個別投票となるかは、国会がどのような形式で憲法改正案を発議するかにもよる。

 

論点11.国民投票における「過半数」の意義

 【提案】

 投票総数を基準とすべきである。また、投票率が低い場合に投票結果を「無効」とすることについては引き続き検討する。

 【理由】

 当該論点は、「棄権票」及び「無効票」の取扱いに関わる問題である。

 「棄権票」及び「無効票」に不当に影響される制度設計は避けるべきであり、国民投票に参加した者の積極的な賛成意思が過半数であれば、十分であると考える。

 また硬性憲法の改正手続であることに鑑み、一定の投票率を下回った場合の結果は無効とすべきとする議論もある。これは憲法改正反対派のボイコット運動を誘発するリスクを孕んでいることも踏まえつつ、引き続き検討すべきである。

 【他に選択しうる案】

 ア.有権者総数を基準とする。

 <理由>棄権票は反対票と同視しうる。

 <批判>棄権票が大量に出ることだけで、過半数に達しない場合がある。

 イ.有効投票総数を基準とする。

 <理由>無効票をすべて反対票と捉えるべきでない。

 <批判>無効票が大量に出た場合でも、憲法改正を容認せざるをえなくなる。

 

論点12.国民投票の書式

 【提案】

 「可」とするものに、「○」を付す方式を採用すべきである。この場合、白票は反対票となる。

 【理由】

 憲法改正国民投票は、「国民の承認」(96条1項)を要するものである。したがって、国民の積極的な賛成意思を基準に考えるべきである。

 白票をどう取り扱うべきか問題となる。硬性憲法の改正手続であることを鑑みると、白票は慎重に取り扱われるべきであり、積極的に賛成の意思を表明するもの()のみを賛成票にカウントすべきである。○でないものはすべて反対票とみなすべきである。

 【他に選択しうる案】

 ア.「不可」とするものに、「×」を付す(→白票は賛成票となる)

 <理由>最高裁判所裁判官国民審査の方式と合致する。

 イ.「可」とするものに、「○」を付し、「不可」とするものに、「×」を付す(→白票は無効票となる)

 <理由>白票は反対票としてではなく、無効票と考えるべきである。

 

論点13.国民投票運動規制・罰則のあり方(3原則8類型)

 【提案】

 国民投票運動規制・罰則は、次の「3原則」に基づき、必要最小限にとどめるべきである。

<原則@>「まず、規制ありき」ではなく、「規制ゼロ」から考える。

<原則A>「プレスの自由」は、特に保障されなければならない。

<原則B>刑法、国家公務員法等、他の法律で刑事制裁が定められている行為類型については、新たに罰則を設けない。

公職選挙法を参考に想定されうる国民投票運動規制・罰則は、つぎのア.からク.まで「8類型」である(かっこ内は公選法の条文)

ア.投票事務関係者の投票運動制限(135)

イ.選管職員の投票運動制限(136)

ウ.投票干渉罪・被選挙人氏名等認知罪(228条1項)

エ.投票箱開披及び投票取出罪(2282)

オ.虚偽宣言罪(2363)

カ.詐欺投票及び投票偽造・増減罪(237)

キ.代理投票等における記載義務違反罪(237条の2)

ク.立会人の義務を怠る罪(238)

 【理由】

 国民投票運動規制・罰則については、国民投票運動の自由と公正さをどのように確保するべきかという視点が基本かつ重要である。

 とくに国民投票運動は、憲政史上初めての試みであり、憲法改正に対する国民の関心が大いに高まり、運動が盛り上がることが肝要である。マスコミ(言論・文書等)による国民投票運動は国民が憲法改正案に対する態度を決定する上で非常に重要な役割を担うことから、事前に過度な規制を設けず、思想の自由市場に委ねることとしたい(cf.公選法では様々な規制類型を置いている)

 また、国民投票運動は候補者・政党の政策等を主な判断材料とし、人物(政党、政治団体)に投票する(公職)選挙とは質的に異なること、とくに投票運動について大掛かりな不正が行われる蓋然性が低いことにも鑑み、規制・罰則は必要最小限であるべきである。

 

論点14.国政選挙との政治的関係

【提案】

 憲法改正国民投票と国政選挙とは、政治的に分離して行うことを基本とすべきである。

 【理由】

 96条1項に規定する「特別の国民投票」又は「国会の定める選挙の際行はれる投票」のどちらを重視するかという問題である。

 政権選択を迫る国政選挙において、二大政党が激しく対立している中、憲法改正において両党合意の上での行動をとるのでは、有権者(国民投票権者の多く)が混乱するおそれがある。

 もっとも、内閣の衆議院解散権(7条解散)を拘束できないことに留意すべきである。

 【他に選択しうる案】

 憲法改正国民投票と国政選挙とは、政治的に統一して行うことを基本とすべきである。

 <理由>@同時実施の方が、投票率向上が期待しうる。

     A主たる運動体は政党であるので、当案の方が現実的である。

     B投票事務と選挙事務が一回的に処理できるので、相当の事務軽減につながる。

以 上

 

説明資料

憲法改正国民投票法制に関する論点とりまとめ案 党憲調役員会案

2005年4月25日(月) 民主党憲法調査会総会提出資料

論点1.国民投票制度がカバーする範囲 → (補足資料)

 

論点2.憲法改正の限界 → (補足資料)

 

論点3.発案権の所在

  「発議」は「国会」が行うが(憲法96)、法律案提出権との対比で内閣に改正案の提出権(発案権)を認めるかどうかが議論となりうる。

○内閣による憲法改正案の発案は認めない。一方、国会議員は憲法制定権力者たる国民から法律を改廃する権能―立法権―は付託されているとしても、憲法改正の最終的な決定権は国民に留保されている。このことに鑑み、憲法改正国民投票には国民からの発案(イニシァティヴ)制度を検討すべきことを提案する。

 

論点4.憲法改正の方式

○憲法改正の方式については、書替改定方式(溶け込み方式)を基本とする。

 ※「憲法改正国民投票制度法案に関する民主党の基本的態度」(2005年2月1日まとめ)において、民主党の方針を出している。

 ※公明党は加憲(修正条項)方式を打ち出している。

 

論点5.「総議員」の意義

  憲法改正の発議には各議院の「総議員」の3分の2以上の賛成が必要とされている(96条1項)。この点については、@各議院の法定議員数を指す、A各議院の在職議員数を指す(欠員は差し引く)という考え方がある。

○「総議員」の意義について、在職議員を指すとするのが学説上は多数とされているが、衆議院・参議院の先例(ただし、憲法84)は、各議院の法定議員数となっていることからも、法定議員数とすべき。

 

論点6.憲法改正発議の方法・広報

○憲法改正発議の方法については、両議院の議決があったときに発議があったものと考えられる(憲法96条1項「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、……」)

○「憲法改正両院合同審査会」(仮称)において、両院で異なる議決をした場合の対応協議を行うこととすること。

○この発議内容についての広報活動(たとえばパンフレットの作成)も工夫して法定すべき。

 

論点7.憲法改正発議後の周知期間(発議から国民投票までの期間)

  憲法改正発議後の周知期間についてどう考えるかについて、@憲法調査推進議員連盟案では60日以降90日以内、A自公案では30日以降90日以内とそれている。

○そもそも、あらかじめ一律に法定しなければならないか。内容によっては、半年程度の国民的論議があってもよいのではないかなど考慮すると、一応60日以後180日以内とし、発議時その周知期間を決めるという仕組みが適切ではないか。

 

論点8.投票権者の範囲

○投票権者の範囲については18歳以上を原則とする。

 ※義務教育修了者については、憲法改正の内容いかんによりその度ごとに投票権を付与する、という整理でどうか。

 ※選挙犯罪を犯して公民権停止になっている者は選挙人名簿に登載されないことになっているが、公職の選挙と異なり、国民投票には参加できるという整理でよいか。

 

論点9.外国人の国民投票運動の自由(意見表明権)

○公共の福祉に反する場合(内在的制約)を除き、可及的に保障されるべきである。

 

論点10.国民投票の方式

  複数の条項・テーマについて改正が発議された場合に、一括投票とするかどうかという問題。

○憲法改正国民投票の方式については個別テーマごとの投票方式を原則とする。

 ※このことは、憲法改正の発議の内容にもかかわり、直ちに「逐条」を意味しない。論理的に不可分な関係を持つ条項については同時に賛否を問うことになる。

 

論点11.国民投票における「過半数」の意義

  国民投票における「過半数」の意義については、次の3通りの考え方がありうる。

  〔A〕有権者総数を基準とする

  〔B〕投票総数を基準とする

  〔C〕有効投票総数を基準とする

○国民投票によって憲法が改正されるという趣旨から、できる限り多くの国民の積極的な賛意が示されることが必要だろうが、近時の各種選挙における低投票率化(特に若年層)に鑑みると、有権者総数というのはあまり現実的ではないのではないか。また、無効票は「投票行動はとったが、積極的賛成の意思を示さなかった」といえることから、投票総数を基準とすることが適当ではないか。

○市町村合併の住民投票などにおいて、5割要件を付して行うケースが見受けられる(投票率が50%未満の場合には投票結果を無効とするなど)。これは、あまりに低投票率だと住民の意思と評価できないという理由に基づくが、否決の見込みがないと見た反対派のボイコット運動を誘発するリスクが想定しうる。この点、引き続き検討する。

 

論点12.国民投票の書式

  投票用紙をどのようにするかにより、論理的には以下のような効果の違いが生じうる。

  〔A〕可とするものに○を付すとして場合、白票は反対票となり、

  〔B〕不可とするものに×を付すとした場合、白票は賛成票となり、

  〔C〕可とするものに○、不可とするものに×を付すとした場合、白票は無効票となる。

○最高裁裁判官の国民審査と異なり、×を付すという選択肢は採りえないだろう。投票総数を基準とした場合には、反対票か無効票かの区別はあまり意味を持たないが、積極的な賛意が示されることが必要という観点からは〔A〕とすべき。

 

論点13.国民投票運動規制(罰則)のあり方―基本的方針

  憲法改正国民投票については、広く国民(市民)参加がなされることが望ましいとの観点に立ち、また、そうであるとすると、選挙のプロですら規制の限界があいまいであるという批判のある公職選挙法の制限に準拠することは、国民投票運動を萎縮させるおそれがある。また、選挙についてはこれまでの歴史的経験に照らした規制と評価できるものもあるが、憲法改正国民投票についてはいまだわが国では経験のない事柄でもあり、予断に基づいた弊害を理由とする規制は行うべきではない。

  したがって、国民投票に際しては、今後の国のあり方を多くの国民が語り合い、議論しあうべきことであるから、その運動に対する規制は原則としてかけないことを基本とすべきである(「まず規制ありき」ではなく、「規制ゼロ」から考える)。とくに、マスコミによる国民投票運動は、思想の自由市場における国民の選択に委ねることとし、公権力によるメディア規制は極力行うべきではない。

  また、刑法や国家公務員法等で処罰される行為類型についても、公職選挙法は@刑罰を加重し、又はA構成要件を拡大している例がある(暴行等による選挙の自由妨害罪など)。しかし、実施期間が特定されない国民投票においては、公民権停止という法的制裁を加え、選挙犯罪の抑止の実効性を確保する実益に乏しいことから、新たに罰則規定を設けないこととすべきである。

 <国民投票運動規制、罰則として考えられるもの(3原則8類型)> →(補足資料)

 

論点14.国政選挙と政治的関係

○国政選挙と憲法改正国民投票は、分離して行うことを原則とする。

 ※ただし、憲法上の権能である内閣の解散権を国民投票という法律で縛ることはできない。

以 上