与党教育基本法改正に関する協議会(平成18年4月13日)
教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(最終報告)
 教育基本法改正については、平成12年12月の教育改革国民会議報告における提言を受け、中央教育審議会において議論が行われ、平成15年3月20日には、答申がなされた。
  与党においては、教育基本法の重要性にかんがみ、同年5月12日に「与党教育基本法に関する協議会」を発足させ、6月12日には、協議会の下に「与党教育基本法に関する検討会」を設置した。
  以来、検討会においては、中央教育審議会の答申を踏まえ、通算70回にわたり精力的な議論を積み重ねてきたところである。検討にあたっては、次の4点を前提としてきた。

  @教育基本法の改正法案は、議員立法ではなく、政府提出法案であること
  A改正方式については、一部改正ではなく、全部改正によること
  B教育基本法は、教育の基本的な理念を示すものであって、具体的な内容については他の法令に委ねること
  C簡潔明瞭で、格調高い法律を目指すこと

  このたび、教育基本法に盛り込むべき項目と内容について、与党協議会としての最終的な結論を得て、別添のとおり取りまとめたので、報告するものである。
  政府においては、本報告を踏まえ、教育基本法改正法案を速やかに取りまとめ、国会に提出するよう要請するものである。

(別添)

教育基本法に盛り込むべき項目と内容

前文

           ○ 我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家をさらに発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うこと。
  ○ この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進すること。
  ○ 日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定すること。

1.教育の目的

 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた、心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならないこと。

2.教育の目標

 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとすること。
  一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体をはぐくむこと。
  二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性をはぐくみ、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
  三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
  四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
  五 伝銃と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

3.生涯学習の理念

 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならないこと。

4.教育の機会均等

           (1)すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されないこと。
  (2)国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育が受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならないこと。
  (3)国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならないこと。

5.義務教育

 

           (1)国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負うこと。
  (2)前項の普通教育は、個人の能力を伸ばし、社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うことを目的として行われるものとすること。
  (3)国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負うこと。
  (4)国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しないこと。

6.学校教育

           (1)法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができること。
  (2)前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならないこと。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならないこと。

7.大学

 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの教育及び研究の成果を広く社会に提供することにより、その発展に寄与するものとすること。このためには、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性は尊重されなければならないこと。

8.私立学校

 私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法により私立学校教育の振興に努めなければならないこと。

9.教員

 法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならないこと。このためには、教員の身分は尊重され、その待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならないこと。

10.家庭教育

 (1)父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとすること。
  (2)国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならないこと。

11.幼児期の教育

 幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならないこと。

12.社会教育

 (1)個人や社会の多様な学習に対する要望にこたえ、社会において青少年及び成人等に対して行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならないこと。
  (2)国及び地方公共団体は、社会教育に関する施設の設置、学校等の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならないこと。

13.学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力

 学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとすること。

14.政治教育

 (1)良識ある公民として必要な政治的教養は、教育において尊重されなければならないこと。
  (2)法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならないこと。

15.宗教教育

 (1)宗教に関する寛容の態度及び宗教に関する一般的な教養並びに宗教の社会生活における地位は、教育において尊重されなければならないこと。
  (2)国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならないこと。

16.教育行政

 (1)教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならないこと。
  (2)国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならないこと。
  (3)地方公共団体は、当該地域における教育の振興を図るため、その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならないこと。
  (4)国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならないこと。

17.教育振興基本計画

 (1)政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならないこと。
  (2)地方公共団体は、前項の計画を参酌し、当該地方公共団体の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならいこと。

18.補則

 この法律に掲げる諸条項を実施するため、必要な法令が制定されなければならないこと。