防衛問題懇談会報告(要約)
未来への安全保障・防衛力ビジョン
2004年10月4日 安全保障と防衛力に関する懇談会

はじめに

 今回の懇談会における意見の大勢は、次の二点。一つ目は、今日の安全保障環境の下では、さまざまな脅威への水際での対処に加え、できるだけ早期に、外側で脅威の予防、火消しに努めることが重要だということ。迂遠なように見える国際平和協力が、重要な自衛の手段たり得る。

 二つ目は、省庁をまたぐ統合的な意思決定や国家緊急事態における待ったなしの意思決定を現実にどううまく機能させるか。情報機能の充実と安全保障会議の積極的活用が重要。

 第1部       新たな日本の安全保障環境


1 二十一世紀の安全保障環境

 二〇〇一年九月十一日、安全保障に関する二十一世紀が始った。国家からの脅威のみを安全保障の主要な課題と考えてよい時代は、過去のものとなった。もはやテロリストや国際犯罪者集団などの非国家主体からの脅威を正面から考慮しない安全保障政策は成り立たない。

 しかしながら、国家間の安全保障問題が消滅したわけではない。また、世界各地における内戦や民族対立、政権不安定などの状況は、冷戦終結後の主要な軍事紛争の根源となっており、常に国際的な軍事対立につながる可能性を秘めている。

このように現在、世界の安全保障環境は、これまでと比較にならないほど複雑になっている。一方の極に非国家主体が引き起こしかねない、想像を絶するテロリスト攻撃があり、他方の極にきわめて古典的な戦争の可能性がある。その中間にあらゆる組み合わせによる危険が存在している。

 地球大で進むこのような安全保障環境の激変に加え、東アジアに位置する日本は、地域に特徴的な安全保障問題にも直面している。この地域には、二つの核兵器国(ロシア、中国)及び核兵器開発を断念していない国(北朝鮮)が存在している。

地球大で進む安全保障環境の変化は、世界的に行われる日本と日本人の活動に大きな影響を与えており、日本の近くでの脅威に加え、遠方での脅威についても考慮しなければならない。

日本への脅威は、外部から来るとは限らない。内発的なテロ勢力や犯罪集団、さらにそれらが外部の脅威とネットワーク化する危険も十分ありうると考えなければならない。

 

2 統合的安全保障戦略

 このように複雑な21世紀の安全保障環境の下で、日本がとるべき安全保障戦略である統合的安全保障戦略における大きな目標は二つある。第一は、日本に直接脅威が及ぶことを防ぎ、脅威が及んだ場合にその被害を最小化することである。第二の目標は、世界のさまざまな地域において脅威の発生確率を低下させ、在外邦人・企業を含め、日本に脅威が及ばないようにすることである。

これらの目標を達成するためには、日本自身の努力、同盟国との協力、国際社会との協力という三つのアプローチがあるが、今後目指すべき日本の安全保障戦略は、この三つのアプローチを適切に組み合わせることによって、自国防衛に備えるとともに、国際安全保障環境の改善を図る、そのための統合的な方策ということになる。

これまでの日本における考え方は、やや狭い戦略であった。これに対し、今後の日本の安全保障戦略においては、二つの目標がより統合的に追求されなければならない。二つの目標と、それぞれに対する三つのアプローチのすべての側面において、日本の保持する能力を適切かつ統合的に結集する努力が必要となっている。

 

(1)日本防衛

ア 日本自身の努力

 このアプローチの目標は、日本に対して脅威が直接及ぶことを防ぎ、もし及んだ場合にもその損害を最小限にくい止めることである。

 今日の国際情勢にも、国家間関係としてみれば、1976年の「防衛計画の大綱」以来の「基盤的防衛力」という考え方が有効な面がある。しかし、冷戦終結後十数年を経て、日本にたいする本格的な武力侵攻の可能性は大幅に低下している。一方、テロリストなどの非国家主体による攻撃という、従来の国家間の「抑止」という概念ではとらえにくい脅威が深刻な問題となっている。その意味でも国家からの脅威のみを対象にしていた基盤的防衛力の概念は見直す必要がある。

 日本への直接的な脅威に対処するための自助努力は、日本全体で総力をあげておこなう防衛活動である。自衛隊をはじめ、日本全体として安全保障に取り組む体制を早急に整備しなければならない。警察などとの協働、地方公共団体を含む公的組織や民間の協力が必要である。

 日本国内の総力を結集するためには、情報収集・分析能力の向上をベースにした日本政府の危機管理体制を確立する必要がある。

 

イ 同盟国との協力

 日本防衛のための第二のアプローチは、同盟国との連帯行動である。今後とも日米同盟の信頼性を相互に高めつつ、抑止力の維持を図る必要がある。弾道ミサイルからの脅威や周辺事態に備えた協力体制の整備を持続的に進め、現実の運用にあたっても日米協力の信頼性向上に努めていかなければならない。

 

ウ 国際社会との協力

 さまざまな領域で行う外交活動や国民レベルでの交流が日本への理解を増進し、いわば間接的に日本の防衛に役立ってきている。特に、国際テロへの対応については、テロリストの摘発・逮捕や、国際テロ組織に対する資金規制に向けて、情報面などにおける国際的な協力や水際対策を充実・強化していく必要がある。

 

(2)国際的安全保障環境の改善のよる脅威の予防

ア 日本自身の努力

 世界各地における脅威の予防に関しては、日本は国際社会や同盟国と連帯して行動することを原則とすべきであろう。したがって、平和維持や平和構築活動、人道支援に対する自衛隊の活動は、原則的には、国連安全保障理事会決議などに基づく国際社会の活動の一部として行うべきである。

 しかし、二国間の開発援助や外交活動、さらには警察などの協力は、日本独自の活動として実行すべきであろう。また、一般的な外交活動や文化交流、さらには民間の行なう貿易・投資活動による雇用や技術移転、人材育成なども、間接的には安全保障につながる役割を果たしている。特に、わが国は、中東から北東アジアに至る地域の不安定化を防ぐため、外交活動、経済活動などを積極的に展開すべきである。

 

イ 同盟国との協力

 わが国が国際的安全保障環境の改善をはかり、脅威の予防を考えるとき、日本が同盟国である米国との協力を行うことは当然である。

 軍事面に着目しても、日米同盟関係は直接的な日本防衛に加えて、国際社会における脅威の発生そのものを予防する機能をたかめつつある。

 米国の世界戦略の変革の中で、積極的に日米の戦略的な対話を深めることによって、領国の役割分担を明確にしつつ、より効果的な日米協力の枠組みを形成すべきである。

 

ウ 国際社会との協力

 日本の安全保障戦略にとって、今後ますます重要になるのは、世界各地の脅威削減に向けた国際社会との協力である。平和構築活動、核兵器などの大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の防止、テロの予防のための外交努力や警察及び司法当局間の協力強化、海上交通路の安全確保のための関係各国との協力体制や国際社会の枠組みづくり、

多国間の信頼醸成・予防外交・紛争処理メカニズム構築など国際的な制度化の努力が求められている。

日本が国連安保理の常任理事国になることは、国際社会と連帯した日本の努力を効果的にする点で重要である。

 

(3)安全保障戦略における統合性の確保

 以上のとおり、日本防衛と国際的安全保障環境の改善という二つの大きな目標の達成には、それぞれ三つのアプローチを適切に組み合わせる必要があり、日本の安全保障戦略には六つの構成要素とも言うべき活動領域が生じる。

 統合的な戦略を効果的に実施するためには、統合的な意思決定の仕組みが必要である。内閣総理大臣のリーダーシップの下、安全保障会議をしかるべく活用し、六つの構成要素をどう関連させ、どの組織にいかなる役割を課すかを決定すべきである。

 

3 新たな安全保障戦略を支える防衛力〜多機能弾力的防衛力〜

 新しい統合的安全保障戦略の下で、自衛隊はいかなる能力を保持すべきであろうか。

これまでの自衛隊は、他国からの脅威に対して主として国内での日本を守る存在であった。自衛隊は「存在」することによって、その目的を達成してきたといえるだろう。

しかしながら、1990年代以降の現実は、このようなあり方に対して、いくつかの修正を迫ってきた。今や、自衛隊は、主として国際的な場において、様々な活動を展開するようになってきた。

他方、わが国の防衛という観点からみても、自衛隊の装備に見直しの必要が生じている。非国家主体の引き起こすテロについて、これまでの基盤的防衛力の考え方のみで対応できないことは明らかである。

現在の安全保障環境の下、自衛隊の保持すべき能力とは、一般的に言えば、統合的安全保障戦略のさまざまなアプローチに貢献する能力だということになる。今後の防衛力はこのように多くの機能を果たしうるものでなければならないのである。

しかしながら、防衛力整備を取り巻く日本国内の環境には制約要因も大きい。第一は、少子化という人口学的制約であり、第二は、厳しい政府財政という制約である。このような制約も考慮するとき、今後の防衛力整備の鍵は、いかにして現存する組織の運用の仕方、組み合わせの仕方、スクラップ・アンド・ビルド、さらには同盟国である米国との役割分担などを通じて、さまざまな機能を有効に果たす体制が作れるかということになる。

様々な組織単位をさらに弾力的に運用することによって、多機能な能力を発揮できるようにすることが必要である。

多機能弾力的防衛力の要は、情報収集・分析力である。テロなど新たな脅威への対応には、国の情報能力のレベルが決定的な意味を持つ。情報収集・分析力こそ、ハードとしての防衛力の効果を何倍にもする乗数(マルチプライヤー)であり、多機能弾力的防衛力の基礎である。

新しい安全保障環境の下、自衛隊の保持すべき能力をここで述べた多機能弾力的防衛力という考え方に基づき整理し直し、その整備計画を再検討しなければならない。

第2部   新たな安全保障戦略を実現するための政策課題

 

1 統合的安全保障戦略の実現に向けた体制整備

 

(1)緊急事態対処

 緊急事態に際しての意思決定は、内閣総理大臣のリーダーシップの下で適切に行われなければならない。そのためには、内閣官房が十分な企画立案機能や危機対処昨日を有する必要がある。

内閣総理大臣は、閣議決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督することとなっているが、弾道ミサイルへの対応をはじめ、国家の緊急事態において、迅速・的確な意思決定を行う観点からは、格別な工夫が必要である。

複雑・多様な国家の緊急事態に際しては、政府が一体となって統合的に対応し、関係機関の間で適切な役割分担を行う必要がある。また、こうした協力関係を実効的なものとするため、平素から協働訓練や人事交流を活発に行い、中央から現場に至るまで各レベルで緊密な関係を形成することがもとめられる。

 

(2)情報能力の強化

 多様な脅威の動向を早期に探知し、その顕在化を防止するため、専門的で精度の高い情報収集・分析を適時的確に行いうる能力の一層の強化が喫緊の課題である。

 

ア 情報収集手段の多様化・強化

 画像情報、電波情報などを、政府の意思決定に、より適切に活用することに加えて、人的情報手段の有効活用を早急にすすめるべきである。

 

イ 情報集約・共有・分析機能の強化

 内閣の情報能力を強化するため、安全保障・危機管理に必要な情報が迅速・的確に内閣に集約され、国全体の政策決定に資する体制を構築することが重要である。

 

ウ 情報の保全体制の確立

 国を挙げて情報の集約・分析・活用を進めるには、情報を扱う関係者に共通の厳格かつ明確な情報保全ルールを作り、実施することが不可欠である。

 

エ 情報についての国際協力のあり方

 新たな脅威に効果的に対処するには、情報面でも国際協力を強化する必要がある。国際協力を効果的に進めるためにも、日本として独自に保有すべき情報能力と他国に依存じても良いものを区別するなどして、有効かつ効率的な情報態勢を構築すべきである。

 

(3)安全保障会議の機能の抜本的強化

 内閣としての頭脳に当たる仕組みを整備するため、統合的安全保障戦略実施の中核組織として、安全保障会議の機能を抜本的に強化しなければならない。特に、平素から会議のコアメンバーの閣僚による情報伝達のための訓練や分析のための会合の頻繁な開催に努め、いざというときに安全保障会議を機動的に運用し、迅速・的確に意思決定を行いうるようにするとともに、事態対処専門委員会で、緊急事態への対応策を常日頃から検討する態勢を充実すべきである。さらに安全保障会議は、国家の安全保障政策全体を常にモニターし、その整合を図るとともに、国家の安全保障戦略を閣僚間で密度高く議論する場として活用すべきである。このため、内閣官房のスタッフの強化を図るとともに、部内外の専門家による政策研究の場を設けるべきである。

 

(4)安全保障政策の基盤の整備、

 政策決定酢の仕組みを実質的に機能させるためには、政府全体として安全保障・危機管理に従事する中核要員を育成する必要がある。テロの未然防止に必要な法制度の整備が急務となっている。

 

2 日米同盟のあり方

 

(1)   日米同盟、日米安保体制の意義

日米安保体制とそれに基づく米軍のプレゼンスは、今後とも我が国防衛の大きな柱であるとともに、この地域にとって不可欠の安定化要因であり続けている。

9・11テロ事件以降、米国は伝統的な抑止戦略を転換し、新たな脅威に柔軟に対処するために態勢の見直しを進めている。

新たな脅威に対応するため国際敵取り組みの中心となっているのは同盟国たる米国であり、国際社会との連携の下で行われる日米協力の機会が今後ますます増大していくであろうことに留意しなければならない。

 

(2)   日米同盟の維持・強化

 日米同盟関係を維持・強化していく努力は、不断に続けられなければならない。わが国防衛の見地からは、現行の「日米防衛協力のための指針」にしたがって、わが国有事等における日米協力のあり方を具体化していくことが重要である。

 さらに、日米間の戦略的な対話を通じて新たな安全保障環境とその下における戦略目標に関する日米の認識の共通性を高める必要がある。現在推進されているグローバルな米軍の変革(米軍再編)については、日米間の安全保障関係全般に関する幅広い包括的な戦略逮捕の重要な契機と捉え、積極的に協議を進めるべきである。

 その際、わが国は、米国との間で日本の防衛や周辺地域の安定のみならず、国際社会全体の着実な安定化により、わが国に対する脅威の発生を予防するとの目的に資するような協力関係の構築を目指すべきである。こうした協議の成果を反映する形で、時代に適合した新たな「日米安保共同宣言」や新たな「日米防衛協力のための指針」を策定すべきである。在日米軍基地に関しては、日米両国が協力して地域社会の負担軽減に取り組んでいく必要がある。

 

3 国際平和協力の推進

 

(1)   国際平和協力に対する日本の取り組み

 わが国は、自らの安全を一層確かなものとするためにも、世界各地、とりほけわが国とのつながりの深い地域の安定化のため、国際社会の取組に積極的に参加すべきである。

 

(2)   国際平和協力の実施体制

近年、国際社会は、平和維持にとどまらず、紛争の予防から紛争後の国家再建に至る一連の活動を発展させている。これを踏まえ、自衛隊のみならず、政府全体として統合的に国際平和協力に取り組むべきである。

 自衛隊の今後については、これまで同様、経験と実績のある人道復興支援と後方支援を中心とする活動を展開していくのか、それとも治安維持のための警察的活動の実施をも視野に入れるのか、政府においても十分検討すべきである。その際には、任務遂行に必要な武器使用の権限を自衛隊に付与することも併せて検討する必要がある。国際平和協力活動は自衛隊の付随的任務として位置付けられてきたが、本来任務と位置付けるべきである。 

 日本の国際平和協力の理念を内外に示すとともに、日本としてこれに一貫して、かつ迅速に取り組んでいくことができるよう、一般法の整備を検討すべきである。

 

4 整備・技術基盤の改革

 

(1)   生産・技術基盤の維持と防衛産業の合理化

 近年、先進主要国の防衛産業は、国際的な連携と文器用体制を構築することによって効率性を高め、競争力を維持しようとしている。

今日、生産基盤を総花的に維持することは困難になっている状況などを踏まえ、原則国産化を追求してきた方針を見直すべきである。独自に保有すべき能力と他国に依存しても良いものを明確に区別し、「中核技術」について最高水準を維持していくことにより、真に効率的で競争力のある防衛生産・技術基盤を構築する必要がある。

 

(2)   武器輸出三原則

 現在の弾道ミサイル防衛に関する日米共同技術研究が共同開発・生産に進む場合には、武器輸出三原則等を見直す必要が生じることなどを考慮すれば、少なくとも米国との間で、武器禁輸を緩和すべきである。

 その際、相手方や対象となる武器・技術の範囲などの武器輸出管理のあり方については、政府において、同原則の基本理念を引き続き尊重しつつ、本件の取扱いに関するこれまでの経緯や各界の意見を踏まえながら検討すべきである。

 

(3)   調達及び研究開発の効率化

 装備品のファミリー化、汎用品の活用による調達ソースの多様化などにより、調達コスト低減に向けて引き続き官民が一体となって取り組むことが必要である。

 装備品の研究開発については、重点分野の見直しによる「選択と集中」の徹底、研究開発プロジェクトの不断の見直し等により、効率化を徹底する必要がある。

 

第3部   防衛力のあり方

 

1 防衛力が果たすべき役割と保有すべき機能

 

(1)   日本防衛のための役割・機能

 ア 国家間紛争に起因する脅威への対処

 新たな防衛力を考える際には、従来とは脅威の態様が変化しつつあることに留意する必要がある。第一に、冷戦時代に防衛力の対象としていたような本格的な武力侵攻を行いうる脅威は当分の間存在しないと思われる。第二に、核兵器や弾道弾ミサイルの脅威に対する米軍の抑止力は依然として有効だが、ミサイル防衛システムによりこれを補完しうると考えられる。第三に、むしろゲリラや特殊部隊による重要施設等への攻撃や国内のかく乱、島嶼(とうしょ)部への侵略、周辺海空域における軍事的な不法行為など烈度の低い軍事力行使に対して即応しうる必要がある。

 このような脅威認識に基づき、必要な機能を備え、即応性を一層高めた体制を構築しなければならない。

 他方、本格的侵攻に備えた中核的な戦闘力については、適切な規模の「基盤」は維持しつつ、思い切った縮減を図る必要がある。

 

イ 非国家主体に起因する脅威への対処

 生物・科学兵器を含むテロにも対処できる機能なども具備し、それらについて高い即応性を維持する必要がある。

 

 この他、大規模災害などへの対処、米国との協力、国際社会との協力において適切な役割を果す必要がある。

 

(2)   国際的な脅威の予防のための役割・機能

ア 国際平和協力

国際社会の要請に迅速に応えて平和協力活動に参加しうるよう、平素から教育訓練体制を整備し、必要な訓練を実施しておくとともに、速やかな展開を実施しうるよう新たに部隊の待機態勢をとることや長距離・大量の輸送機能を充実する必要がある。

イ 国際社会との連携の下で行われる日米協力

 今後、国際平和協力の場面においても、日米協力の機会が増加していくことが予想されるため、平素から日米間の情報分野の協力拡大や外交・防衛当局者間の対話の活発化を図っておく必要がある。

 

2 新たな防衛力の体制

(1)   考慮要素

 新たな防衛力を構築していく際には、少子高齢化や厳しい政府財政等の制約要因、必要な機能への重点的な資源配分や防衛力の質的水準の維持の必要性などに留意する必要がある。

 

(2)   防衛力の具体的な構成

 ア 陸上防衛力

 対機甲戦を中心とする本格的着上陸侵攻対処のための編成・装備・配置を見直し、烈度の低い多様な軍事行動への即応体制の構築に重点を移す。このため、戦車・特殊等の重装備部隊を中心に思い切った縮減・効率化を図り、各種事態の初動における即応展開や、柔軟な運用が可能な普通科部隊に要員を大胆にシフトする。併せて事態に応じた増援能力、NBC等防護能力などの向上を図る。さらに、海外任務に常時即応するため高い錬度の部隊を保有する。

 

 イ 海上防衛力

 対潜水艦戦闘を中心とした編成・装備・配置から、島嶼防衛や弾道ミサイルの監視・対処、武装工作船よる不法行為対処等に重点を移す。このため、艦艇部隊については、その体制を縮減・効率化しつつ、即応性の向上を図る。その際、ミサイル防衛能力を整備するっ。航空機部隊については、その体制を縮減・効率化しつつ、周辺海域における警戒監視体制を維持する。また、海外任務遂行能力の向上を図る。

 

ウ 航空防衛力

 周辺空域の警戒監視を常時行うとともに、領空侵犯に対処しうる体制を引き続き確保しつつ、戦闘機を含む航空機部隊の縮減・効率化を図る。誘導弾部隊については、ミサイル防衛能力を整備する。また、航空輸送能力の充実を図る。

 

 エ 統合の推進

 統合運用態勢を強化するため、統合運用に必要な中央組織を整備するとともに、各分野において統合運用基盤を確立する必要がある。

 

 オ ミサイル防衛

 今後整備が進められていくミサイル防衛システムは、海自のイージス艦、空自の地対空誘導弾ペトリオット、自動警戒管制組織(バッジシステム)などを活用するミサイル防衛システムを現行の法制度の下で有効に運用しうるか否か検討の上、法改正を含め必要な措置を講ずべきである。

なお、策源地への攻撃能力を持つことが適当か否かは、米国の抑止力の有効性、ミサイル防衛システムの信頼性などの観点から慎重に検証するとともに、費用対効果や周辺諸国に与える影響なども踏まえ、総合的に判断すべきである。

 

カ 情報通信機能

 情報収集活動を充実強化するだけでなく、要員の育成などにより情報本部における戦略的な情報分析能力をさらに向上させることが必要である。また、収集・分析した情報を所要の部隊等の間で迅速に共有するためには、サイバー攻撃にも対処しうる高度のセキュリティ・システムに守られた大容量・高速・広域の情報通信ネットワークを構築する必要がある。

 

キ 人事施策

 新たな状況に対応して多様な任務を遂行していくためには、若手幹部の活用、専門技能に長けた准尉・曹クラスの重用などの措置を講じる必要がある。

 

 第4部       新たな「防衛計画の大綱」に関する提言  

 

1 「防衛計画の大綱」に定めるべきもの

  本懇談会においては、安全保障環境の変化を踏まえ、新たな「大綱」に盛り込むべき内容について議論を重ねてきた。新「大綱」には、本報告書に示したように、統合的な安全保障戦略を進めるために国全体としてとるべき政策、その中において自衛隊が果たすべき役割、保有すべき機能と体制を盛り込むべきである。

1957年に策定された「国防の基本方針」は、今日もなお妥当する考え方を含んでいる。他方、この方針が策定されてから今日までの半世紀近くの間に、日本の安保保障を取り巻く状況は大きく変化した。新「大綱」は、こうした変化を踏まえ、「国防の基本方針」の考え方をも包含する新たな安全保障戦略を示すものとして策定されるべきものである。

 

2 防衛力整備目標の示し方

 新たな「大綱」は、日本の安全保障戦略の全体像を示すものであると同時に、防衛力整備の指針を示すものでなければならない。その際、防衛力整備の目標水準の示し方については、次の二点に留意する必要がある。

第一に、防衛力のいかなる機能が量的にどのように変わるのか、その達成時期も含め、国民に明確に示すことが求められていること。

第二に、防衛力のあり方は、不断に弾力的に見直されるべきものであること。

 このため、新しい「大綱」には防衛力の定性的な機能を中心に目標を規定するとともに、現在の別表に相当するものについては、時代の変化に合わせて定期的に見直しができるよう、その規程の内容、方法等を検討すべきである。

  

付言 更に検討を進めるべき課題―――憲法問題

懇談会の議論を通じて、懇談会は、憲法が規定する平和主義、国際協調主義の下で、国民を守る自衛の努力と国際平和協力の両者を日本の安全保障の基本方針と結論づけたものである。

 戦後わが国の安全保障と防衛力を巡る議論においては、憲法問題の論争が多かった。今後は、国民のコンセンサスを得ながら、建設的な政策論争が発展していくことが望まれるとともに、幅広い視点から憲法問題について議論されていくことが期待される。

 従来から国会その他の場で活発に議論されてきた集団的自衛権の問題については、懇談会の場においも早急に解決すべきであるなどの意見が出された。また、これに関連して、個別国家の持つ集団的自衛権の問題と国連が行うPKOや集団的措置の問題はそれぞれ別個のものと整理して論ずべきものだとの意見もあった。

 政府においては、集団的自衛権の行使に関連して議論されるような活動のうち、わが国としてどのようなものの必要性が高いのか、現行憲法の枠内でそれらがどこまで許容されるのか等を明らかにするよう議論を深め、早期に整備すべきである。