<民主党・岡田克也代表のアメリカにおける講演>

 

新しい日本と21世紀の日米関係

                   2004729日  岡田 克也

1. 日本の政治が大きく変わり始めた

 7月11日の参議院選挙は日本に二大政党時代が到来したことを明確に示している。我々民主党は与党自民党を上回る議席を獲得した。従来民主党が強いとされていた都市部での勝利に加えて、地方においても自民党と互角の結果となった。何よりも比例選挙においては自民党1,700万票を400万票上回る、2,100万票を獲得した。得票率でみると比例区選挙で民主党は38%、自民党は30%であり、選挙区選挙では民主党39%、自民党35%である。

 今回の選挙結果は多くの国民からは一時的なものとは受け取られていない。昨年11月の衆議院議員選挙でも政権交代こそなかったものの、比例選挙においては、既に民主党は自民党を200万票近く上回っていた。参議院選挙後の世論調査でも、国民の7割近くが二大政党化がすすんだことを「良かった」としており、30代から50代までの有権者は自民党よりも民主党の政権を望んでいる。戦後60年の日本政治の中ではじめて二大政党、政権選択の時代を迎えている。

 私は1990年に衆議院議員となり、3年後に自民党を離党、非自民政権である細川政権樹立に参加した。その後10年以上野党に所属し、一貫して新たな政権政党づくりに取組んできた。この間日本の政治を改革するという、私の信念が揺らぐことはなかった。私に対し、「まじめすぎる、堅物」との批判もあるが、政界においては、まじめなことが悪いことならそれは日本の政界がまちがっているのだと思う。6年前に民主党が結党以来、政策責任者、幹事長などを経て、今年5月に民主党代表に就任した。党のbQである幹事長として取組んできたのは、政党運営の透明性を高めるための改革。例えば我が国の政党として初めて民主党の政治資金の収支報告を監査法人に監査させることを決断した。日本の閉鎖的な記者会見システムを改め内外のマスコミにオープンにするなどの改革を実行してきた。今回の参議院選挙は「正直な政治」と「本当の改革」を訴え小泉総理の自民党に勝利した。

 国民は50年間実質的に政権交代がない日本の政治を何とか変えたいと真剣に考えている。長すぎた権力の座が生み出した自民党の腐敗と既得権保護の政治を終わらせ、国民の手に政治を取り戻したいと考えている。「自民党をぶっ壊す」といった小泉首相に一時期待はしたものの、現実には改革がすすまないことを理解し、本当に改革をすすめるためには政権交代が必要だと感じている。

 民主党はメンバーの国会議員の7割が民主党結党後、即ちこの6年間に初当選した若い世代からなる政党。ビジネスマン、官僚、弁護士、NGOなど多様な経験を持ち、日本を何とか再生したいとの思いから政治家を志した人の集まりである。しがらみなく日本の改革に取組むことができる。我々民主党の使命は、ここ3年以内に行われる次の衆議院選挙で確実に政権交代し、日本を変えることである。日本にとって残された時間はそれほど多くはない。私は必ず政権交代を成し遂げ、日本を改革する。

 今回、私の日本改革のためのビジョンと外交政策について、お話する機会をいただいたことを心から感謝申し上げる。

 

2、私の改革理念

 日本の政治、とくに内政が直面している最大の問題は日本の置かれた環境が大きく変わったことに対応できていないことだ。かつての高度経済成長時代にできた、当時としては最も効率的で優れた仕組みが、今や大きな障害となっている。安定成長、そして少子高齢化時代の急速な到来という新たな時代に対応するための抜本的な改革が必要だ。

 第一に中央集権体制から分権社会への転換である。国が独占している権限と財源を思い切って地方政府に移すことが重要である。我々は18兆円の国の様々な補助金を廃止し、地方政府が自由に利用できる財源として地方政府に移すことを主張している。補助金には利害関係者が必ず存在する。いわば既得権益との戦いであり、既得権益に立脚する自民党政権には絶対できないことである。ここ十年間で登場した全国の改革派知事達の主張は民主党に極めて近い。

 第二には市場のことは市場に委ね、政治が介入しないことである。日本には国際的な競争力を持つ多くの企業がある。国際競争とは関係のない国内市場においては、様々な形で市場介入がなされ、保護政策が実施されてきた。私は市場を通じた自由な競争が経済の活力をもたらすとの信念の持ち主である。大胆な規制の撤廃や独禁法の強化による公正で自由な競争の促進が必要である。

 第三に市場で解決できない分野においてこそ、政治の役割が求められる。私は「自由で公正な社会」を実現する。即ち中間層の厚みがある社会、多様な生き方が互いに尊重される社会、選択の機会が公平に保障される社会、次の世代に対して責任を果す社会、まじめに働く人が報われる社会、失敗した人が何度もチャンスを与えられる社会、そして努力しても報われなかった人にも手を差し伸べる社会の実現である。国及び地方の長期債務残高のGDP143.6%と財政上の大きな制約のある中で、これらの課題に勇気をもってチャレンジしていきたい。

 

 以上の基本理念に基づいた具体的な政策について、参議院選挙時に選挙公約(マニフェスト)を提示した。今後更に検討を重ね、国民とりわけ若者が将来に希望が持てるような改革ビジョンを早急にまとめる。政権交代後4年以内に日本を再生する。

 

3、新たな外交政策の展開

 米国はいまや世界史上例のない超大国である。経済力、政治力、軍事力いずれも抜きん出た存在である。日米同盟を維持し、更に発展させていくことは日本にとって極めて重要。特に世界経済の成長センターであるアジア太平洋地域の安定と発展にとって、深い信頼関係に基づく日米同盟はなくてはならない存在である。このことを私の基本認識とした上で、いくつかの論点について率直に申し上げたい。

 第一に抜きん出た力を持つ米国に対して、国際的な協調をより重視する姿勢を期待したい。米国の先制攻撃、単独行動主義に対して世界が懸念を示している。米国の軍事力なくして世界の平和が維持できないことは事実である。また国連は非効率で改革が必要であることも認識している。しかし、米国が単独行動主義をすすめていけば世界は混乱する。テロや拡散する大量破壊兵器の脅威は一国の力ではどうすることもできない。またいかなる民主主義国家であっても権力が誤って行使されることを完全に排除することはできない。私は世界のリーダーである米国が、より寛容であり、謙虚であることを期待したい。イラク戦争は一つの反省材料とすべきである。国連が世界の平和のために、より重要な役割を果たすことができるよう日米が中心となって国連改革をすすめるべきである。日本は国連改革の先頭に立つとともに、安保理の常任理事国となって改革された国連において、更に重要な役割を果たすべきと考える。

 第二にこれからの日本の果たすべき国際貢献について述べたい。日本は60年前の戦争の反省に基づいて、海外において武力行使することに慎重な姿勢をとってきた。憲法改正論議がいま行われているが、この平和主義の精神は重要であり、今後とも堅持すべきと考えている。日本には集団的自衛権の行使を広く認め、自衛隊が米軍との共同した軍事力行使を世界中で行えるようにすべきとの意見もあるが私は反対である。しかし、私は従来の野党のような護憲論者ではない。憲法を改正して国連安保理の明確な決議がある場合に、日本の海外における武力行使を可能にし、世界の平和維持に日本も積極的に貢献すべきとの立場に立つ。この二つの考えはしばしば混同されるが、明確に違いが出るのは米国が国連安保理の決議なく、単独で武力行使をしたときに、日本がともに武力行使に参加することを認めるか否かという点である。私は国連決議がない場合には日本は海外で武力行使すべきではないと考えている。

 第三に日米同盟を更に充実した強固なものとするためには、国民的な理解と支持が不可欠である。日本は日米安保条約に基づき米軍にとって世界戦略上極めて重要な基地を提供し、米軍に対する年間6,400億円(55億ドル)の財政負担を行っている。沖縄の基地問題は限界状況にあり、現在検討中のトランスフォーメーションの中で、沖縄の米軍基地の見直しを日米間で協議する必要がある。朝鮮半島安定後を見通した東アジアにおける米軍基地のあり方、そしてアジア太平洋地域の安定のための日米韓三カ国の協力のあり方を、韓国政府も巻き込んで議論すべきと考える。

 第四にイラク問題について一言述べたい。我々はイラク戦争に反対した。国民の6割近くがイラクの自衛隊派遣に反対している。イラクの現状を見れば、イラクの治安確保のため米軍が活動することは必要なことだと考えている。しかし、イラクはいまだ各地で戦闘行為が行われており、我々は自衛隊がイラクにとどまっていることは海外での武力行使を禁じた憲法との関係で問題があると考えている。日本政府が憲法上の疑義を明確に説明することなく、多国籍軍への自衛隊参加を決めたことは国民の強い批判を招いている。もちろん私は、イラクの復興のため日本は積極的な役割を果たすべきと考えている。日本は最大50億ドルの資金協力を約束し実施中。また警察、医療、教育などの面での協力も可能である。将来的に選挙によってイラク国民の代表が選ばれ、治安状況も安定し、憲法との関係がクリアーされる状況になれば自衛隊を派遣しPKO的な役割を果させることは選択肢の一つと考えている。重要なことは、国際社会が一致してイラクの復興支援に参加する環境づくりであり、そのための外交努力である。

 第五に北朝鮮の問題について述べたい。北朝鮮の核及びミサイルは日本の安全保障上最大の脅威である。日本においては、国民的課題となっている拉致問題とともに早期に解決する必要がある。北朝鮮にとって、その生存のために中国型の経済改革を実現することが不可欠であり、そのためには日本の経済協力資金が必要である。日本としては核や拉致問題の解決なくして、日朝国交正常化やこれに伴う経済協力はあり得ないとの基本原則を堅持しつつ積極的な役割を果たしていきたい。六カ国協議が成功した場合には、北東アジアの当面の安定と朝鮮半島の非核化という直接的な成果のほか、東アジアは二つの貴重な果実を得ることとなる。それは日米韓三カ国の強固な同盟関係の構築と、それに中国、ロシア、北朝鮮を加えた六カ国による将来の東アジア協力体制の基礎づくりである。是非とも、六カ国協議を成功させるために、日米韓三カ国の緊密な協力が必要である。

 最後に中国との関係について述べたい。中国は日本にとって米国と並ぶ貿易相手国であり、歴史的・文化的にも深い関係にある。強固な日米同盟を前提としながら、中国といかにして信頼関係を築いていくかは、日本の外交・安全保障政策上の最大の課題である。ここ数年、米中両国がいままでにない良好な関係にあることは日本にとって極めて望ましいことだ。日米中三カ国の経済的相互依存関係は今後ますます深まることは確実である。冷戦的な発想に陥ることなく、アジア太平洋地域における平和と安定のため、日米中の三カ国が建設的協力関係を築いていくことが重要である。

 

 私はここ十年間中国、韓国の次代の指導者との交流のため、可能な限り毎年1回は両国を訪れてきた。日本は60年前の戦争の結果失った信頼を、アジアにおいて、いまだ取り戻すことができていない。経済面だけでなく、政治、安全保障面で日本がアジアにおいて信頼され、リーダーとしての役割を果すことができるよう政治家として努力していきたい。

 そして日米両国関係については、日米同盟がより国民的基盤を持った強固なものとなるよう、両国の自立と相互信頼をキーワードにより対等な同盟関係の構築を目指して努力する決意である。日米両国は経済・文化など多面的な協力関係にある。私にとって米国での一年間の生活経験は、私を政治家への道を歩むことを決断させるきっかけとなった。米国はすばらしい国である。持続可能なより深い日米関係を築いていくことは日本にとって国益であり、政治家としての私のこれからの果すべき大きな課題である。今後とも皆様のよきアドバイスをお願いしたい。